本と人とを結ぶには

 

初めまして、伊勢は外宮前の小さな本屋・散策舎、代表の加藤優(かとう ゆたか)です。

名古屋に生まれた僕にとって伊勢志摩は、子供のころよく訪れた想い出の旅先であり、多感な大学時代を過ごした街でもあり、そして東京での暮らしをやめて移り住んできた、第二の故郷のような場所です。

今は外宮さんの近くで小さな本屋さんを、僕とパートナーの二人で営んでいます。

この街に暮らす人々にとって、また伊勢を訪れる人々にとっても、日々を確かに歩むための心の糧となるような本を、しっかりと選んで届けていきたいと思っています。多様な本との偶然の出会いを、散策するように楽しんでいただければ幸いです。


さてこのたび、CPO(Chief Philosophy Officer:最高哲学責任者)として、FOLK FOLKに関わらせていただけることになりました。

大仰な肩書きですが(笑)FOLK FOLK好きないち本屋として、代表のみちやさんを初めスタッフの皆さんが生み出しているエッセンスをいただいて、お返しに皆さんのヒントや外部からの問いかけとなりそうな本をそっと差し出したりする、そんな役割です。

志摩・国府の浜にこの春オープンする「CO Blue Center」でのライブラリーづくりに続き、本屋としての活動でご縁をいただくことができてとても嬉しいです。

きっかけは、ひとつの旅でした。

みちやさんからお誘いいただいた「ゼロ・ウェイスト」の取り組みで有名な徳島県上勝町への視察旅行、その帰り道でお話しするなか何となく自分なりに考えていたのは、「僕たちはどうして、この街に魅せられるのだろう」という問いでした。

上勝へは、徳島市街から山の奥へ奥へと車を走らせ1時間弱。山と海という違いはありますがちょうど伊勢から言えば志摩あたりの距離にあって、人口は1400人ほど。いわゆる過疎化や地域産業の衰退に悩んでいる地域でもありますが、今から20年ほど前の上勝の人々にとってはゴミ問題が最も身近な社会問題だったといいます。



なるべく燃やすゴミを減らすために、細かく分別してリサイクルする。必要に迫られて始めたゴミ処理がゼロ・ウェイストの理念と出会い、住民も行政も事業者もそのときどきに出来ることを自分ごととして取り組んでいきました。それはやがて持続可能な自治体を模索することにつながっていき、結果として今では多くの人が上勝の取り組みを学びに訪れるようになったのです。

上勝の人々から伺ったお話や現地での体験は、かつて人々が気づき取り組んできたことの歴史が、ギュッと凝縮されたもの。それは読書にも似ていながら、より濃密で確かな旅の醍醐味なのでした。






『捨てない未来』枝元なほみ/朝日新聞出版

そんな旅から戻って店の本棚を見たとき目に留まったのが、フードロスと貧困問題の解決に取り組む、料理研究家の枝元なほみさんによるこの本でした。

食べることとは本来「生きるため」の自然な行為です。かつて戦争という「食うに困る」経験をした人々は「必ず食べ物にありつける」仕組みを社会に求めて、やがてその食文化は飽食と言われるほどにまで発展を遂げていきます。

ところがその仕組みは「余ったものは平気で捨てる」という前提で成り立っていた。捨てることが前提の仕組みは食べ物を「商品」として扱い、いつしか生きるための行為を「消費するため」の行為へとすり替えてしまいました。




何もかもを当たり前に消費することを前提とした社会。東京に居た頃の僕は、その息苦しさを身をもって感じながらも、その仕組みに加担しながら働き依存しながら暮らしていました。

「商品を買って消費して捨てる」という一連の流れは実際便利だし、その波に乗っていれば自分は楽だし、効率も良いように思えます。しかしそれは、息苦しさの解決には全くなっていませんでした。

消費すること・捨てることを前提とした一方通行の流れは、突き詰めていけば、社会的に”効率の悪い、無駄な”人間を捨てる未来へと至ってしまうからです。




枝元さんは、フードロスの取り組みとは身近なことから、社会の前提を「自然の循環に再び参加する」方向へと変える運動であって、それは私たち自身が「かけがえのない」存在であることを思い出させ、「私たちらしく生きていく」ための未来を捨てないことにつながるのだと書かれています。

上勝の人々によるゼロ・ウェイストの取り組みも、志摩のCO Blue Centerでやろうとしていることも、やはり自然の循環に身を委ねるという方向からデザインされていて、そこにはあたり前だと思っていたことに改めて気づかせる仕組みや、自ずと参加したくなる心地よさがある。

それぞれの場でその人らしいやり方で、まず身の回りでできることから循環の輪を生み出して、波紋のように広げていこうと活動する人々が確かに居る、そのことが街の魅力の源流にあるのだと思います。





そして、伊勢でも。

豊かな海と山に恵まれ、歴史や文化が息づいていて、多くの旅人が訪れるこの街には、もともと人々が集まってくるだけの何かがたくさんあるはずです。

伊勢に来たことのない人でも、その名前はだいたい知っていて、何となく良い街というイメージを持ってくれている。その魅力はこの街に暮らす・伊勢を訪れる人と人とが交流することによって、長い時間をかけて育まれていったのではないでしょうか。




社名を「Wedesign」から「FOLK FOLK Inc」にかえて、FOLK(人々)というキーワードを軸に活動を広げているFOLK FOLKとは、結婚式場でありながらカフェやホステルでも、音楽ライブや読書イベントでも、そしてこのPILOTでも、様々なかたちで人と人とを結ぶことで、さらなるエンパワメントを引き出す場になろうとしています。

街に書店はだいぶ減ったとは聞きますが、それでも大きな書店がショッピングモールに2

つ、河崎に古本屋さんが、宮川の向こうに絵本屋さんがあって、図書館も元気に活動されています。

昔からある珈琲屋さんや小さな映画館、セレクト系の服屋さんや道具屋さん、ゲストハウス、ZINEの作家さん、マジシャン、パン屋を引き継いだパン屋さん、花屋とその奥のカフェ、他にも面白い活動をしている人々がたくさん居て、それは僕が大学時代を過ごした10年ほど前よりも明らかに増えています。




生活も仕事も趣味もかつてに比べればだいぶ自由に選ぶことができ、技術の進化によってリアルな場所でなくても簡単に誰かと繋がることのできる現代、それでもあの店に行きたくなるのは、自分の足で旅したいのは、結婚式を挙げるのは、誰かと会って話したいのは、紙の本を買うのは、この街で暮らしていくのは……やはりそこに「かけがえのない生き方をしている」人々が居るからだと思うのです。

FOLKな皆さんに学びながら、これからもずっと本と人とを結ぶ仕事を続けていくのが僕の目標です。今日も本屋で、お待ちしています。

本屋・散策舎

住所:伊勢市伊勢市本町15-26 サイエンスビル2F

営業日時:10:00-16:00金・土・日・月(火・水・木は不定休)インスタグラムよりカレンダーをご確認ください

WEB:https://baladeur.jp/

Instagram:https://www.instagram.com/baladeur_jp/?hl=ja

Twitter:https://twitter.com/baladeur_jp?lang=ja

 
Michiya Higashiyama