ローカルに根付くマイクロブルワリー「ひみつビール」

 

佐々木基岐さん(左) 藪木啓太さん(右)


2022年、伊勢市二見町に新しく誕生したブルワリー「ひみつビール」。『ひみつにしておきたくなるくらい美味しいビール造り』を目指して名付けられたその名前は親しみやすい響き。今回は二見町にあるブルワリーに実際に足を運び、ひみつビール創設者のお二人、藪木啓太さんと佐々木基岐さんにお話しを伺いました。担当は柳生かなです。

民家や農家が並ぶ通りにふと現れるひみつビールの工場

二見町の民家が立ち並ぶ通りを進むとふと現れるひみつビールのブルワリー(醸造所)。ポップな水色の工場は実は藪木さんの祖父母の代から引き継いだ農業用の納屋を改装したもの。工場内に入ると、これまた水色・黄色・ピンクとポップな色合いの内装でなんだかワクワクする。

仕込み作業をする佐々木さん(左)と藪木さん(右)

ひみつビールを立ち上げたのは南信州ビールとヨロッコビールで醸造経験を積んだ藪木さんと、日本酒メーカーでは研究と開発、伊勢角屋ビールでは工場長(ヘッドブルワー)も務めた佐々木さんという経験豊富なお二人。

そんな藪木さんと佐々木さんは伊勢出身で高校からの同級生。
ドラマのストーリーにもなりそうなお二人ですが、伊勢でブルワリーを立ち上げたきっかけは?

藪木さん
「学生の時から仲が良くて、いつかは一緒に何かやろうと話していた。ビールの道に進んだきっかけとしては、越後ビール破綻のニュースを知り、ビール業界が大変なことになっとる!と危機感を持ったこと。もう一つのきっかけは、基岐が海外ではクラフトビールブームが来ているらしいと情報を得てきて、大阪のグランフロントができたばかりの時に、一階の世界のクラフトビールが飲めるところで1本1000円するビールを4本買い、2人で飲んだら衝撃的で、『やばい!うまい!』となり、『これはゆっくりしていられない。すぐにでも動かな!』と気持ちが決まった。大学院卒業後は将来いつか一緒にやっていくために、それぞれ別の道で経験を積もうと言って、基岐は日本酒メーカーで研究、開発部門に入り、自分は南信州で3年勤務し経験積んで、5年後には独立を目標とした。資金集めも、年100万、5年で500万2人で貯金したら資本金1000万で始められるからと言い、独立資金の貯金もそれぞれ頑張った。」

まだ少し肌寒い4月にインタビューさせていただきました。

藪木さん
「農業系の大学院卒となっても、三重に帰ってきてできる仕事は限られている。だったら自分たちで働く場を造ってしまおう!となり、ルーツのある地元の伊勢でクラフトビール事業の設立を目指した。」

藪木さん
「2年経ち、独立目標まであと3年となった時、基岐もそろそろビール業界に入りたいと話していた。そしたら大阪のビールイベントに角屋ビールが来ていたから、『働かせてください!』と直談判。割と無理やり頼み込んだ。そのタイミングで結婚退職の人がいて、ちょうど空きがあるから働くか?と話が動いた。ここだけの話、角屋ビールのブルーマスターである出口さんから自分に、『佐々木っていうやつが宇治山田高校出身で、同じ年くらいやけど知っとるか?』と電話がかかってきて、絶対とった方がいいですよ!!と、もうプッシュして送り込んだ。笑」

その後無事(?)佐々木さんは角屋ビールに、藪木さんはヨロッコビールに勤め始め、独立の道へ進んでいった。

計画的に着々と自分たちの道を進んできた藪木さんと佐々木さん。そんなお二人のビールへの想いも聞いてみました。。

佐々木さん
「ビールを造っているのはビールが好きだからというのもあるけど、ビールって一番工業化されているお酒。日本酒ならお米を蒸して、麹を撒いて、手で揉んでと、お米を見て触り造っていく。ワインなら葡萄。でもビールは?となると、原材料のホップがペレットになっていて、何を扱っているんだろう?という気持ちになる。そもそも工業化された原材料は安心安全なのか?とも思ったり。2人とも農家出身で、畑が遊び場だった。植物や野菜を自分でつくるのも好き。だから一般的には工業化されているビールだけどひみつビールでは自分たちで育てたものを使ったり、信頼できるところから仕入れている。」

藪木さん
「誰のためにビールを造っている?を日々課題にしている。まずは自分たちが飲みたいビール。その次に家族、親友、知人に飲ませたいビール。大切な人に飲んで欲しいし、大切な人のために頑張っている。なので安心安全はもちろん、大切な人に向けた美味しいビール造りを目指している。」

ひみつビールと言えば、毎月のように新しいビールをリリースされていますが、どのようにインスピレーションを受けているんですか?

佐々木さん
「季節感というものを大事にしていて、自分たちの畑で収穫したものでフレーバーや香りをつけたりしている。年末ならゆず、夏はスイカのビールといった感じで。だから農作物からインスピレーション受けているかな。自分たちのビアスタイルはいわゆるファームハウスブルワリー。ファームハウスブルワリーの起源はベルギーとフランスの国境辺りで、元はセゾンと呼ばれているスタイル。夏の間、農家の人たちが水の代わりに栄養のあるビールを飲んでいたと言われていて、農家の人たちが農作業後に喉を潤すために醸造したのが始まり。アメリカの人たちはそのブリュースタイルを引き継ぎ「セゾン」は原産地呼称だからと言い、ファームハウスエールと名づけた。自分たちも農業と密接なブリュースタイルをとっているのでファームハウスブルワリーをこの地元の地で始める意義を見出して立ち上げた。」

工場裏にあるビニールハウス。ブルーベリーなど、季節に合わせて野菜を育てている。

MonZakabaとの共同イベントにてひみつビールの畑で収穫したライ麦。

工場裏にある夏みかんの木。実を収穫してジュースにしたり、ビールの原材料にしている。

農家というルーツをたどり、二人の想いとクラフトビールを発展させて立ち上げられた「ひみつビール」。今後どのようなビールを造っていきたいですか?

藪木さん
「ローカルに楽しんでもらっているビールが本来の地ビールだと考えている。だから地元に愛されるビールを造っていきたい。地元の人が好んで選んで飲んでもらえるようなビールを。例えば、観光客が地元の人に「その今飲んでいるビールなんですか?」って聞いて、「伊勢のクラフトビールのひみつビールや!伊勢の人はみんなこれ飲んどる!」って言われるように頑張っていきたい。ただ、伊勢は収入面とクラフトビールの価格帯で参入していくのは難しく感じている。自分がいた鎌倉は地元愛がすごく、地元のモノを愛する姿勢がすごい。自分たちも地元の人たちに背中を押してもらえる存在に、応援してもらえる存在になりたい。」

パッケージのイラスト・デザインはイラストレーターのaoiさんが担当

「居場所をつくるブルワリー」も目標と聞きましたが、ビールが居場所をつくるとはどういうことでしょう?

藪木さん
「物理的な居場所はいずれかはつくりたいがまだ遠い。全然知らない土地にポンっと入れられた時に、どうやって友達作る?となると、とりあえずなんでも話してみて頑張って友達を作ってみるかもしれない。ただその中で、同じ県出身とかだと、共通言語があって、一気に仲良くなれるはず。ひみつビールもそんな共通言語、きっかけになれたらと思っている。そういう意味での居場所を作るブルワリー。知らない場所で、誰かがひみつビールを飲んでいて、『僕も好きなんです。』で会話が始まり友達になるような。ひみつビールは流通が少なくて、プロダクトにこだわりもある。初めて訪れる街でも、ひみつビールのあるところに行けば、何かつながりがあり、安心できる場所になるんじゃないかなって。好きの肯定って居心地が良いと思うし、その人の居場所になる。」


知らない人同士の共通言語。担当のかなも旅先でひみつビールを見かけるとついつい店主に話しかけてしまします。

担当のかなが愛知県豊田市のイベントに出かけた時に見かけたひみつビール

物理的な居場所と言われましたが、今後の展望として何か考えられているんですか?

藪木さん
「いずれは酒場を持ちたいと思っている。酒場に集まり、仲良くなり、何かが生まれるエネルギーはすごいと信じている。それで何か新しい事業が生まれたり、会社ができたりしたら働く場所も増える。酒場はエネルギーが高い人が集まる場所。そういう場所を作るのが自分たちの使命だと思っている。ビジネスして、お金儲けするだけでは浅いと思うから、その先がある、価値ある事業をしていきたい。言うたらまちづくりのきっかけを作りたいかな。街の魅力向上にもつながるような。酒場があるとみんなが思っている以上に街に活気がつき良くなるから。自分がいた鎌倉は外に出てもまた戻ってくるような人たちが多く、小さい店を持ったり、事業をはじめている。伊勢にはまだそのエネルギーが少ないと思うから、エネルギーが発生する場所づくりをしていきたい。」

撮影担当のショウは出来立てのビールの試飲もさせてもらいました

藪木さん
「ビールだけでなく、アルコールドリンクと一緒のように食事と楽しめるソフトドリンクも開発中。色んな状況・環境があってアルコールを飲めない人がいる。だけど外で食事を楽しもうとした時、今はアルコールを飲める人たちだけが食事中の飲み物を楽しんでいる。それってなんか違うなっと思って。だったら自分たちでアルコールを飲んでる人も飲みたいと思ってもらえるような美味しいソフトドリンクもつくってしまおう!と思い今開発中。」

工場裏で採れた八朔からつくられたジュースの販売もおこなっている

高校生の頃から意気投合し、ブルワリー設立まで着々と進めてきた藪木さんと佐々木さんのお二人。毎月のようにリリースされるひみつビールの新作も楽しみだが、今後の事業展開もより楽しみに。

ぜひ伊勢で、または旅先で、ひみつビールを見かけたら、ぜひ店主に話かけてみてください。とっておきのひみつの情報を教えてくれるかも?

ひみつビール

取扱店(伊勢市内):CO Blue Center / MonZakaba / la cave du Clos / ニコマート / 酒のあおき / 小西酒店 / チーズ and リカー kamosu / nousagiya / 酒の田所 / 白鷹三宅商店 / Jamise 

Instagram:https://www.instagram.com/himitsu_beer/

書き手

柳生 かな

 
 
 
Michiya Higashiyama