ここは大人たちの社交場、「AHL」
今回紹介するのは、しんみち商店街の一角にある「AHL(アール)」。
夜の静まった商店街に灯る店内は明らかにバーのようで、しかしドリンクのメニューは存在せず、ランチのスパイスカレーも美味しいらしい……。
いったいどんなお店なのだろうと気になって、代表の福岡さんからお話を伺いました。
担当は本屋・散策舎の加藤 優です。
AHLさんって、どんなお店なんでしょう?
「自分としては「酒場」とか「社交場」としてやっている感じかな。最初はワインバーっていう形ではじめたけど、今はもうひと通りお酒や季節の料理を楽しんでいただけます。店の特徴は……挙げるとすれば「酒・音・花・人」なんだけど、僕の中ではお酒というのは大人が楽しむためのツールの一つで。人と人とのコミュニケーションを、お互いWin-Winの状況でできるようにと思ったときに、僕のやれることはたまたまお酒だっただけ。」
「もちろんバーのように使ってもらってもいいし、軽食を食べにきてもらってもいい。ただひとりでやってるんで、満席になった時には料理はちょっと厳しいかもしれないし、でも予約になるけどコースでお料理を出すこともできます。そういった意味合いをすべて含めたうえで、大人たちの社交場っていうイメージで僕はやっています。」
AHLには、ドリンクのメニューは無い。訪れたお客さんとやりとりしながら、何を出すかを決めていくという。
「初めましてのお客さんでも、ふだんお好きなものとか、さっきまで何飲んでたとか、こういうのを飲んでみたいとか、こんなの飲んだら美味しかったんですとかっていう、情報をいろいろ教えてくださいご提案させていただくんで、っていうところから始まるんです。」
「あんまりバーには来たことなくても、たとえば居酒屋のレモンチューハイが好きだとしたら、僕が考えるアプローチで一旦つくってみてそこにちょっとだけ違うエッセンスを入れてあげると、その人のお酒の世界というのも広がるはず。この辺が大丈夫ならこの辺もいけるやろ、っていう推理みたいなところもあるかな。」
お客さんから引き出した情報を、お酒にマッチングさせていく。一杯目の反応から、また次の選択肢を広げてつなげていく。本屋と同じく、セレクトショップのような仕事なのだ。
散策舎でも、セレクトするときそれがどんな本なのか、隅から隅まですべて読むことはできないがなるべく事前に調べるし、入荷したら味見するように目を通している。お客さんとはバーのように会話することはないけれども、そのぶん本が語ってくれているのではないかと思う。
「本の場合、あらすじとかPOPとか活字での説明やアプローチがあって、それを見て買うと思うんですけど、どういうお酒かっていうのは開けて飲んでみないとわからないから、酒の知識は飲むしかない! 口に入るものでもあるし、やっぱり発信する側としてはテイスティングって大事ですよね。」
あこがれの大人になりたくて
店内を見渡してみれば、そこにあるだけで何かを物語るかのような物がたくさんある。
立派な甕に入った、伏した松の木に赤いランとツツジ。年季の入った食器棚や重厚なモルタルのカウンター。ほのかに店内を照らすヴィンテージランプ。もちろんお酒も含めて、AHLそのものが福岡さんの提案する大人の遊び心なのだろう。
「例えば小学校のときによく遊んでもらっていた近所のお兄ちゃんとかがさ、中学入って急に先輩とか呼ばれ始めたりして、まだ中3とかなのにすっごい大人に見えたりするじゃない。そういう「近しい大人への憧れ」みたいなのって、中学高校でもいろんな人に出会って増えていくし、さらに年齢を重ねていくと自分で何かしらやってる人は周りに増えていくんだけど、どうもいつからか「近しいかっこいい大人たち」が居なくなってしまったような感覚があって。」
「僕が憧れていた、かっこいい大人たちが集まる場所ってどこなんやろうって、考えていろいろ行ったけど自分がほしい場所はなかなか無かった。でもかっこいい奴らは絶対居るはずだから、集まる場所がないんやったら僕が作ろうってことで。
ただお酒が好きで飲んでた、料理が好きで作ってたっていうだけのど素人が、7年前に始めたような店なんだけども、「かっこいい大人の社交場がほしい」っていうその一心が今も続いている感じかな。
自分がそういう「近しい大人」として20代の子とかにも発信できるのは、ほんとに今のうちだと思う。酒場のカルチャーとか飲み方とかを、次の世代につないでいきたいね。」
7年半やってみて、そしてこれから。
伊勢の中でも、よりローカルな人たちに発信したいと語る福岡さん。しんみち商店街に店を構えたのは、たまたま知り合いから声をかけてもらったのがきっかけだったという。
「最初はお金もなかったからなるべく自分で改装して、毎年何かしら変えながらちょっとずつ今の形になっていったんです。足しては引いて自分の理想に近づけてね。」
「新しい店ができると、良くも悪くも色んな人が来るんよ。僕としては自分の店に対しての良いお客さんをまず優先したかったから、当たり前のモラルやマナーの無い方々にとってはとにかく居心地の悪い店にしたかったんね。だから最初の2年間はお客さんと喧嘩する事も多かったかな。何回かカウンター飛び越えて殴りかかろうとして常連さんに止められて、みたいなこともあったけど。(笑)」
「2年間ずっとそんなことばっかりやってたら3年目はめっちゃ暇になった。
そりゃそうよね。あそこへ行けば口うるさいし感じ悪いし喧嘩するし。(笑)
でも3年目の売上はむしろ上がったの。
ってことは、アプローチとしては間違ってはなかったかなって。」
「そうしていい感じになってきたころにコロナ禍が始まったんだよね。でもそれをきっかけにランチ営業をはじめて、カレー屋っていう認識をしている人たちも多くなったかな(笑)。あと正直夜は、コロナ前と違って今でも静かです。でも忙しくはなくなった分、自分が本来やりたかったことができてる。
お客さんと僕とでも、お客さん同士でも、いろんな会話をしながらゆったりとした時間が流れて、そこにお酒があって、ようやく最近売上も戻ってきた。忙しくて儲かってるんじゃなくて、ほんとにいい空気感でお客さんが長いこと座ってくれてる。」
「なので1日目から、かっこいい大人にアプローチするつもりでやってきて、今7年半ぐらい経つんだけど、最初からの感じのまま今も続けているというだけなんです。僕のなかではあと2年半で、10年経ってやっとスタートに立つっていうようなイメージ。
店名の「AHL」というのは、とある頭文字からとってるんだけど、僕のなかではたいそうな事を言ってるつもりではおるもんで、10年経ったらその意味も公表しようかなと思ってます。」
7年間いろんなことがありながらも確実に歩み続けて、この場所を成長させてきた福岡さん。
ぜひお酒を飲みながらいろいろとお話しして、AHLにこめられた大人の遊び心を味わってみてください。
AHL(アール)
Curry lunch time 11:30〜14:00(Lo.13:30)火木土
Bar time 18:30〜25:00
Sunday 14:00〜気まぐれ
定休日:月曜、第三火曜
住所:伊勢市一之木2-2-25
Instagram:https://www.instagram.com/ahl.jp