本との出会いを楽しむ街の小さな本屋さん、散策舎

 

外宮参道を少し外れ、横断歩道を渡り、一見雑居ビルに見える建物の2階へ登ると、扉のすりガラスに大きく緑で「本」と貼られた字が目に入る。そう、ここは街の小さな本屋さん、散策舎。



外宮近くということもあり、観光客も地元の人も混ざり合う場所。ある人にとっては発見の場、またある人にとっては憩いの場。今回は散策舎の店主である加藤優(ゆたか)さんと山中美佳さん(以下優さん、美佳さん)に話を伺いました。担当は柳生かなです。



緑を基調とした店内に、本がずらり。ハードカバーから文庫、小さい子が楽しめる絵本まで並んでいる。スペースが限られている中どのように選書されているのでしょうか?

優さん「散策舎には「旅・食・心」の3つのテーマがあり、そのテーマに沿い選書をしています。またそれだけでなく、2人が気になる読みたい本も仕入れてます。最近は常連さんも多く来てくれるので、常連さんの顔を思い浮かべながら、あの人好きそうだな、と思って入荷することもあります。それで、その方がその本を手に取ってくれると、とても嬉しいですね。」

選書の方法が街の小さな本屋さんならでは。この話を聞いた常連さんもきっと嬉しいはず。


ビルの2階ということもあり、散策舎は知る人ぞ知る本屋さんかと思いますが、どのような方がよく足を運ばれますか?

優さん「最近は本当に幅が広くて、10-20代の若い方から、同世代の30代から40代の方、幼稚園のお子さんや赤ちゃんを連れた親御さん、ご年配の方まで足を運んでくれます。街の人が多いですが、御書印帳を持った旅人の方が来てくれることもあります。」


美佳さん「こないだは御書印帳を持って、朝から長野の本屋さんに行って、伊勢のウチに来てくれて、その後奈良に行くという方も来てくれました。」


優さん「県外の方も増えましたね。少し参道から外れた場所だからこそ、街の空気感もあると思うので、旅人にもこれからたくさん訪れて欲しいです。」


御書印とは人と書店を結ぶ印のこと、全国393店舗の書店が参加している(参加書店増加中)

様々な年代、また観光客から地元の人も訪れる散策舎は本好きにたまらない空間。本を手に取り、それぞれが思い思いの時間を過ごす場所でもある。

小さな子が手に取りやすい高さの棚には目に楽しい絵本が並ぶ

散策舎へ来たことがない方におすすめの楽しみ方や本の選び方はありますか?

美佳さん「普段目につかない本に出会えるのが散策舎のいいところ。また興味あるけど、触れていなかった本とかも触れてみて欲しいです。目にしたことあるけど素通りしてしまった本とかも、買わなくてもいいから、ちょっと読んでみて、こういう考えもあるんだな、と思ってもらえるだけで嬉しい。大きい本屋さんだとどうしても目的買いの方が多いと思うので、そういうのではなく、ふらっと入って、立ち読みして帰る時間とかも楽しんでほしい。散策舎ではドリンクの用意もあるので、飲みながら本を眺めたり本を選ぶ時間も楽しめます。お茶してお話して帰られる方もいるので、それぐらい気楽にふらっと来て本のある時間を楽しんで欲しいです。」

ドリンク片手にゆっくりしながら本を選ぶ時間は贅沢なひと時。

散策舎で用意している飲み物は伊勢の中村珈房さんのコーヒーと、Lavinia Teaの紅茶。中村珈房さんは言わずと知れた伊勢の河崎で焙煎を行うコーヒー屋さん。Lavinia Teaはお二人の横浜の知り合いで、インドから紅茶を輸入されている。伊勢でこの紅茶を飲めるのはおそらく散策舎だけ。

カウンター内でドリンクを用意している美佳さん

また、コーヒーつながりで、最近の美佳さんおすすめの一冊、片岡義勇のエッセイ「僕は珈琲」。熟成されたカレーのように、人生を何年も重ねた人が書く文章とのこと。自分の文章に自信を無くすから、モノを書く前は読まない方が良いと助言を受け、とても気になり取材後購入に至りました。

ところで散策舎の名前の由来も聞いてもいいですか?


優さん「本屋は散策しにくる場所だと考えています。ウチは大型書店のように地図もなく、棚にジャンルの明記もない、どちらかというと本という森の中に入って散策するように本との出会いを楽しむ場。なので、散策する人の気持ちで来てほしい場所=舎として、散策舎と名前をつけました。あと、これは裏テーマなんですが、泉鏡花の『春昼』という本の中に出てくる、散策子(さんさくし)という主人公から。これはキャラクターの名前ではなく「散策する人」という意味です。主人公は著書本人とも言われていて、誰でも物語の主人公になれるということを示唆しているんです。誰でも本を読むとき、主人公になって物語に入り込むじゃないですか。なので本屋に入るときも、誰もが散策子になれるという思いも込めています。」

湯谷建築設計によりノベーションされた店内は、本という森の中を散策して欲しいというお二人の思いを反映し、森をイメージした緑と木目が基調となっている

FOLK FOLKから自転車で約10分、徒歩約20分。

小さな本屋さんながら一度入店すると長居してしまう、心地の良い空間。旅人はぜひ外宮参拝の後に本の散策を楽しんでみては?

本屋・散策舎

住所:伊勢市伊勢市本町15-26 サイエンスビル2F

営業日時:10:00-16:00金・土・日・月(火・水・木は不定休)インスタグラムよりカレンダーをご確認ください

WEB:https://baladeur.jp/

Instagram:https://www.instagram.com/baladeur_jp/?hl=ja

Twitter:https://twitter.com/baladeur_jp?lang=ja

 

書き手

柳生かな

 
 
 
Michiya Higashiyama